はんだの検証
はんだの検証です。
検証した結果、2000年以前の機器の修理には鉛はんだ、
リファレンスはアルミットLFM-48(SAC305)、
色づけしたいならkester 48(SAC305)となりました。
【2021.05.29 追記】
現在、LFM-48およびKester48を私は使っておりません。
別のものを使用していますが、商売上の秘密としていますので公開しません。
昔の検証結果であることを留意したうえでご覧ください。
はじめに
私の好むものは基本オーディオ的にはつまらないです。
私は音楽が主役でありオーディオ機器は黒子と考えている為、
オーディオ的な音に全く魅力を感じないためです。
故に、オーディオ好きの方が聴くと
「何?このつまらない音」という風に感じると思いますので、
それを踏まえて各自で検討して頂ければと思います。
きっかけ
ケーブルの検証で選んだMS202を使っていて、
何かギラギラする上、鈍い感じが出てきました。
プラグは整えたので、残るははんだであったため、
はんだを疑うようになりました。
今まで使っていたのはWAKO TECHNICALのSR-4NCuです。
熱回復の悪いこてでも簡単に付けられる上、
性能を発揮するまでの時間がSAC305より早かったため
使っていました。
今まで使っていたこてはHAKKO FX-888です。
そう悪くないこてですが、
FX951と比較すると私の腕で鉛フリーを扱うには
ちょっとつらい部分がありました。
今までのケーブルでは音もそう悪く無かったのですが、
MS202は容赦しませんでした。
ここまで如実に表れてはたまらんということで
検証して選定を行うこととしました。
はんだ以外の材料
はんだ以外の材料は以下の通りです。
XLR-4pinは流石にHDシリーズコネクタは高額なため、
普通のXXシリーズを使いました。
ケーブル:カナレ MS202
フォンプラグ:カナレ F-15, F-16
RCAプラグ:カナレ F-09
XLR-4pin:ノイトリック NC4FXX-B
検証に用いた機器
機器は以下の通りです。
アクセサリー類は多いので割愛します。
機器 | 名称 |
---|---|
ヘッドホン | HDJ-X10 改造版 |
DAC | RME ADI-2Pro + 鉄+真鍮ハイブリッドケース |
ヘッドホンアンプ | ハイエンドオーディオメーカー製 ヘッドホンアンプ(※1) RME ADI-2Pro(※2) |
※1:【2018.03.03】名称伏せました。鉛はんだのため、後述の通りはんだ組成検証までで使用しました。
※2:後述の通りはんだメーカー比較で使用しています。本検証以降はこれがリファレンスとなります。
検証
1回戦 はんだの組成
はんだの組成はADI-2 Pro → ヘッドホンアンプ間のラインケーブルで行いました。
結果は以下の通りです。
リファレンス組成:SAC305(業界標準)
ビンテージ修理:鉛はんだ (アルミット KR-19 RMA)
SN100C
今まで使っていたはんだは銀が入っているためダメと考え、
購入しました。
どうやら、これをベースにオーディオ用はんだを売っているところもあるようですので、
ベースとして良いかもと思ったのが購入した理由です。
結果、高域のピークがなくなりました。
それに伴い高域のピークで潰れた音が出るようになったことで
鈍さも解消されました。
さらに、エレキギターの音は独特の色気が乗るので
良いなこれと思ったのですが、同時に
「待てよ。経験上、特定の楽器が強調される場合、
大抵なんかがロスしてる。」
と思いました。
この嫌な予感は大当たり。
中~高域当たりが荒れていました。
おかげで金管楽器、女性ボーカルではがさがさになります。
特に女性ボーカルは風邪を引いたのかと言うくらい荒くなります。
さらに音の伸びが悪いです。
したがって、エレキギターやエレキベースのシールド線を作る際に
使うと良い気がしますが、モニタリングするにはNGです。
このはんだをベースしたはんだは使わないこととします。
ここで分かったのは、オーディオ用はんだは音楽再生に適さないと言うことでしょうか。
音の色づけには向きますが…。
SAC305(Sn:96.5 Ag:3 Cu:0.5)
日本アルミットのはんだを取り寄せている最中に
組成の違いを試そうと考え、LFM-48と同じ組成を試すために購入しました。
温度調整ができるはんだごてできちんと付ければ、
今のところこれが一番でした。
それと付けてから大体4日間は音が落ち着きません。
このことも付けにくさと共にSAC305から逃げていた理由でもあります。
ややピーキーになったあと、少し鈍くなり、
その後詰まりが取れたかのように急激に猛スピードで音を送るようになります。
以下のページはエージングによる機械的特性の低下に関するページですが、
その中の「室温エージングの影響」の写真を見るとSACの方が大きく変化していますので、
その影響かなと考えられます。
(8-2-5) エージング効果 -Pbフリーはんだ付けの金属学的基礎
これなしに「やっぱり鉛はんだ」と言っているのであれば、
検証不足と判断した方が無難です。
Ag0.3 Cu0.7
銀抜きを行おうと買ってみました。
結局、SAC305と比べて音の伸びが悪いです。
銀の含有量が減った為と考えられます。
今回、銀外しを行うつもりでしたが、
銀が音の伸び、銅が音の踏ん張りに起因したことが分かり、
そのバランスがSAC305が現状ベターであることが分かりました。
KR19-RMA
鉛はんだも比較しました。
文句言われそうにないアルミットのKR19-RMAにしました。
無難ですが、鉛フリーはんだを否定するほど圧倒的な音ではありません。
むしろ、350度で温度管理して付けたSAC305に比べれば、音の伸びが悪く荒いです。
立ち上がって欲しいところで立ち上がらない、伸びて欲しいところで伸びない、
踏ん張って欲しいところで踏ん張らない。どれもあと一歩足りない。
そして若干荒れる。そんな感じです。
はんだで信号が結構ロスしている感じです。
抵抗率が高いのが要因と考えられます。
ソース:Pbフリーはんだ付けの金属学的基礎 12-1-3) 各種はんだの諸特性(静的特性)
比抵抗[nΩ・m] SAC305:114 Sn-37Pb:139
したがって、MS202とSAC305と検証したコネクタで作ったケーブルに
鉛はんだを使った機器を通すとかなり情報ロスしているのが分かりました。
BGMで聴く程度であれば気にならないですが、
私の要求する性能は満たせません。
私の用途ですが、2000年以前の機器は基本鉛はんだのため、修理を行う時には使います。
「鉛と鉛フリーを混ぜるな」と教わっている為です。
あと、最適と思われるのは銀メッキ線を使う場合でしょうか。
多分、高域のピークが鉛はんだのロスによって和らげられると思います。
このはんだ、簡単にとけてくれますが、後述するLFM-48と同様、
粘性が強いため、つけるのにちょっとコツが入ります。
どうも、アルミットのはんだの特徴みたいです。
その疑いもあってコツを掴んだ状態で
はんだづけしたケーブルを作って試しましたが、
やや良好になったものの差が埋まるものではありませんでした。
下手を晒すのは恥ずかしいですが、一応こんな感じです。
フィレットを作りやすくするためにフラックスを塗って行い、
鉛はんだはFX-600の370℃設定で行ったため、
塗ったフラックスがちょっと焦げてしまったかもしれません。
二回戦 メーカー別
組成はSAC305がベストと判断したため、
後はメーカーを選ぶことにしました。
一つは注文していたアルミット、
もう一つはオーディオとか楽器ではよく出てるkesterです。
はんだ組成の検証をした結果、
鉛はんだの機器では今のケーブルに全く耐えられないのが分かったため、
ADI-2 Pro用のバランス変換ケーブルを作成して比較しました。
結果は以下の通りとしています。
リファレンス:日本アルミット HR-19 M LFM-48 P-3
オーディオ用:kester 48(SAC305)
ただ、この辺は誤差程度で気分の問題と思います。
個人的にははんだの組成の方が重要と考えます。
以下の記載する違いに関してですが、ほんのわずかの違いを記載しています。
オシロのdivで言えばはんだの組成が5V/divでの変化とすれば、
50mV/divでの変化を語っているようなものと思って下さい。
(だから試聴環境を変えています。)
それを踏まえて読んで頂けましたら幸いです。
日本アルミット HR-19 M LFM-48 P-3
一番ロスが少なかったです。忠実の一言。
(当然、4日くらい経ってから安定します。)
伸びて欲しいところで伸び、踏ん張って欲しいところで踏ん張り、
立ち上がって欲しいところで立ち上がる。
見事に要求に応えてくれました。
よってリファレンスと採用しました。
欠点は粘性が強く、フィレットを形成するようにきちんと付けるのに苦労します。
ケーブルとコネクタの両方にきちんと熱量を与えないとプクッと盛ったままになるからです。
最近、こての当て方のコツを掴んだので楽に出来るようになりましたが…。
このためにはんだごてをFX-100に変更して良かったです。
このはんだごてはIH方式のコテで
セラミックヒータ方式より熱回復が早いのが特徴のようです。
おかげで鉛フリーはんだが鉛はんだのように簡単に付けられるので意気揚々としてました。
しかし、アルミットはやはり一筋縄ではいかないようです。
ただ、これでフィレットを形成するように付けられるようになると
ほとんどのはんだがチョロいと感じるようになるので、腕を磨くのにもお勧めです。
(後述のkester 48の楽さと言ったらもう…。)
Kester 48
アルミットに比べて音がわずかに取れなくなるものの(誤差程度)、
何か色気があって良いです。
これが我の強いオーディオ機器のような「あざとい色気」では無いので、
音楽を聴くのを邪魔しません。
計測器では出てこないと思いますが、
そういう色気を好んでKesterを使われる方が多いんだなと思いました。
それから、アルミットに比べて粘性が低く
容易にはんだ付けできるのも魅力です。
聴いていて楽しかったので、
オーディオ用途のケーブルにはこれを使います。
結果をHD650用ケーブルに反映
はんだの検証も終わったので、HD650用ケーブルの製品版試作をしました。
MS202を一巻き購入しました。
HD650で粗方確認した後、試聴してHD650より改良されたと判断して買った
HD660 Sに変更して経過を見ている最中です。
もちろん色々な音が乗らないADI-2 Proで。
1週間様子を見る必要がありますが、
聴いた感じはHD650系があまり好きではない私でも
「いいな。これ。」と思えるレベルには音が取れるようになっています。
HDJ-X10改造版で音を詰めたので、
通用しないかもと少し不安がありましたが、杞憂でした。
以前のケーブルと比べると音の厚みは減りましたが、
反面鈍さが無くなり、凄く綺麗に音が分離します。
開放型の特徴がふんだんに出ているようで
音がどう重なっているのかが
ペイントソフトのレイヤーを重ねるように分かるので、
パート毎に録音してミキシングされているのなら、
合成しやすいかなと思います。
聴いていると、
「ああ。問い合わせた方、この音が欲しくてHD650系を使ってるのか。なるほど。」
というのがよく分かります。
私はHDJ-2000系のようにハウジングの反射音と混ざって音が少し合成されて
ハウジング起因の空気バネで一直線に耳元に飛んでくるのが好みのため、
私との相性はあまりよくありませんが、理解出来る音作りです。
これなら、試作1回目の時より満足して使って頂けそうです。
(以前のは以前ので頑張って作ったんだなと思いました。
そして、はんだやコネクタの音がばれない…)
最後に
はんだの取り寄せに時間がかかって大変でしたが、
良い機会でした。
結果的にボリュームを1dB下げても
十分音が取れるようになりました。
というわけで、オーディオ的な音が欲しい以外では
普通にパーツショップで売られている鉛フリーはんだで
はんだ付けした方が「きちんとした音」が出るので、
そちらを買った方が色々お得というのが私の見解です。
これで、ようやくMS202の性能を引き出せました。
後は最終調整して納品に向けて頑張ります。
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はんだごて
FX-100
こて先が高い、FX-951と比べてオプションパーツは少ないですが、
はんだの付けやすさでは群を抜いています。
(※:こて先は別売です。)
白光(HAKKO) IHはんだごて FX-100
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FX-100のこて先はT31シリーズです。
Amazonより楽天の方がこて先は豊富でした。
温度は番号によって決まっています。(T31-01:450℃、T31-02:400℃、T31-03:350℃)
私は350℃のT31-03をお勧めします。
まずは基本形状のT31-03BLから始めるのが良いかもしれません。
白光(HAKKO) [T31-03BL] こて先/BL 350℃ T3103BL【5400円以上送料無料】
音楽再生機器
ADI-2 Pro
電源の変更と局所に制振対策、自分に合ったDACのフィルタ設定を行えば、
高額なDACを押しのけることすらできるレベルの音を有します。
ヘッドホンアンプ部分も
応答性がもう少し欲しい所ですが、その分反動によるオーバーシュートがないことから、
突き詰めれば「深い低域」がだせるため、しっかりと「音楽」が聴けます。
(やっとそこまで引き出せるようになりました。もっと突き詰めます。)
ADI-2 Proは検証したら特集記事を書く予定です。
使いこなしにきちんと応えてくれる良い道具です。
RME ヘッドホンアンプ・DAC ADI-2 Pro
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HDJ-X10
私が愛用し、改造してリファレンスで使っているヘッドホンです。
今回のはんだの検証では十二分に活躍してくれました。
そのままでも十分に音楽を楽しめますが、
あれこれ試行錯誤して自分なりの使い方を見つけるのも非常に楽しいヘッドホンです。
そのうち特集記事を書きます。