【フェルナンブコ】フェルナンブコ染め鞄

 フェルナンブコのオガ粉再利用の一環として作った、
フェルナンブコ染めの鞄が完成しましたので紹介します。

きっかけ

 以前、万年筆コレクターをしていて
三光堂様と懇意にしていた時、

 三光堂社長から

「バイオリンの弓を作っている杉藤さんが弓にならない材を
 何とかしたいと相談があったんだけど、なにか面白いものにならないかね。」

と相談を持ちかけられたことがきっかけです。

 「万年筆にしてみては?」と話した結果、
色々な方が動き、万年筆となりました。

フェルナンブコ 万年筆

 ほとんどの万年筆は売却しましたが、
この万年筆だけは今でも使っています。

フェルナンブコ万年筆 2014年現在

 他にも色々なものに出来ないかと考えていましたが、
業務多忙と万年筆界隈の人間が嫌い(※1)になったため、
検討を止めていました。

 その後、仕事で無茶をしすぎて休職中となりました。

 ただ休んでいるのは勿体無いし、
今のうちに色々な経験を積んでおきたいと思い、
リハビリを兼ねて杉藤楽弓社様へ問い合わせて、
2014年の1月からフェルナンブコの端材等の利用を検討し始めました。
無論、ボランティアで。

フェルナンブコとは?

 Wikipediaによると、正式名「ブラジルボク」というマメ科の植物です。

 染料として使われていましたが、硬さと響の良さから
バイオリンの弓として使われています。

 ところが材料として伐採しすぎたため、2007年に
ワシントン条約で「輸入禁止」となってしまいました。

 したがって、使えるのは「国内にストックされているもの」のみ。
貴重なものなので、「長く使ってもらえるものにしたい」というのが、
杉藤楽弓社の想いのようです。 

フェルナンブコの特性

 フェルナンブコには以下の特性があります。
 ・硬いこと
 ・染料が抽出できること
 ・よく音が伝わる事

 よく音が伝わるのは「色素」も関連するという研究があり、
研究結果を元にした特許も公開されています。

【2014/9/23 追記】
フェルナンブコに関する研究と
研究結果をにした特許のリンクを追記(アンカーで埋め込み)。

バイオリン弓にできない材

 バイオリン弓に出来ない材は以下3つが有ります。
 ・節やヒビで弓にできない弓用角材

フェルナンブコ角材(コントラバス)

 ・バイオリン弓の角材製造時にできるブロック材

フェルナンブコ ブロック材

 ・バイオリン弓加工時に出てくるオガ粉

フェルナンブコ オガ粉

 今回は「オガ粉」の利用に焦点を当てます。

フェルナンブコのオガ粉の再利用

 フェルナンブコがもともと染料だったため、
オガ粉を染料として使ってみることを考えました。

 生地や糸を染色される方を見つけて、
染色してみました。

 媒染を変化させることで色が変わることが分かりました。
左から「銅(紫)、アルミ(赤)、鉄(グレー)」です。

フェルナンブコ染め 木綿糸

 生地はピンクの糸がフェルナンブコ染めの糸です。

フェルナンブコ染め糸 使用生地

 この生地や糸を持って染め物として
小物や鞄を作る人に見せたのですが、良い反応はありませんでした。

 そこで、オガ粉で染めた物を全面に使ったものを作って見せれば、
面白い反応が出るかなと思い、革と布を染めて鞄を作ろうと思い立ちました。

考えたのは以下のとおり。
 ・私が使いやすい形態の鞄にする
 ・表面にフェルナンブコ染めをした革を使う
 ・裏地にフェルナンブコ染めをした布を使う

鞄ができるまで

 さて、草木染めの鞄を作るには以下のことが必要となります。
  ・布を染める
  ・革を染める
  ・鞄を作る

布を染める

 糸はちょっとした趣味の人でも染めることは出来ます。

 しかし、鞄を作る布となるとかなり大きな面積を要し、
染める技術も必要と感じました。

 どうしようかと調べていると、地元で草木染めを教えている
草木染工房しかり様を見つけて
教わりに伺いました。     

草木染工房しかり

 本当に山奥です。クロスバイクで登って行ったら、
まじめにトレーニングになりました。

 最初に買ってきた生地を洗います。洗濯は天然石鹸で行います。
市販の洗剤は「界面活性剤が入っているためNG」とのことです。

 なお、使った生地は「かつらぎ(生成り)」です。

フェルナンブコ染め 下準備(洗濯)

 洗浄後、呉汁(20分)浸して1週間感想させます。
これをやらないと色が定着しないそうです。

 乾燥後、染め(20分)→媒染(酢酸アルミ)による定着(20分)→洗浄→染め(20分)を
週を明けて3回繰り返しました。

 均一に染まるように生地を常に動かしていなければならず、
かなり重労働でした。

 1回目染めて乾燥後、水に入れたもの。

フェルナンブコ染め 1回目の染色

 これが完成。結構赤くなりました。

フェルナンブコ染め 3回染め後

革を染める

 これは素人がやれる代物ではありません。
生地に染めるのとはわけが違います。
「タンナー」という皮から革を作る人を探す必要があります。

 苦労した結果、姫路のタンナーALMIGHTY様を見つけ、
5月に姫路に伺って交渉してきました。
その時の姫路城です…。

2014 姫路 訪問時

 工場で職人との交渉は結構キツかったです。
最後には理解して頂いて、OKとなりました。

 完成した革(鞄にした後の端切れ)です。

フェルナンブコ染め 革

 ほんのりピンク色に仕上がりました。
写真だと伝わりにくいです。

 後述する鞄屋さんからも「今まで使った中で最高の革」という
評価を頂きました。めげずに頑張った甲斐がありました。

鞄を作る

 これも苦労しました。

 ある鞄職人が「革作りを牛を屠殺するところから見たい」と言ったので、
いざ「革作りから一緒にやってみませんか(無論、革代は私が負担で)」と
依頼してみると「革の実物があれば」と言ってNGでした。

 出来ないのに、できるような口ぶりをされるのはちょっとね。

 それにめげずに探した結果、岐阜の松尾屋様を見つけ依頼しました。

松尾屋

 最初は厳しい表情でしたが、鞄を作るのにどんな革と布が必要か
丁寧にアドバイスをしてくださりました。

 染めた材料(革・布)を持ってきた時も材料の懸念点、
作りたい鞄をより良くする提案等、キッチリと対応してくれました。

完成品

 色々な方々に協力を得てできた鞄です。

フェルナンブコ染め鞄

 布は裏に使っています。

フェルナンブコ染め鞄 裏地

 中身です。

フェルナンブコ染め鞄 中身

 今回の鞄、鞄屋さんのカバン作りのノウハウを
ふんだんに入れ込んだそうです。

 側面だけでも
 ・ショルダーのベルトは切り通し
 ・鞄側のショルダーの止めはミシンとリベットのハイブリッド
 ・玉縁は自立目的なので途中で普通の縁に変わる

 といった感じに強度面でしっかりとした作りを
施したそうです。

フェルナンブコ染め鞄 側面

 想像以上の仕上がりでした。
プレゼンテーションにも実用にも十二分な出来です。

作ってみて

高い染色力の確認

 「染料」としてのフェルナンブコを見せてくれました。
さすが「染料」で使われていただけのことはあります。

 タンナー、鞄屋の腕は勿論ですが、色が非常に魅力的です。

 これがエージングされた時、どのような色になるのか楽しみです。

 これが「使い道なく、捨てられていく」というのは勿体無いです。

染料の値段としては破格

 杉藤楽弓社様へ問い合わせると45L一袋で6000円、
送料1000円で販売したいとのことです。
大雑把に測ってみましたが一袋7~8kgありました。

 これに似た染料で「蘇芳」あります。

 蘇芳は通販で500gで6500円で販売されています。
これを考えると7~8kgで6000円は破格と思います。
送料を含めても7000円です。

 ただ、45Lの袋の中に色々な削りカスが入っていますので、
玉石混交という欠点はあります。

 ただし、どの状態のものでも「染まります」。
染まり具合としては削り節状が薄く、チップ状のものが濃く染まります。

 オガ粉を染料として使いたい方は杉藤楽弓社様へ
問い合わせてはいかがでしょうか。

材料の加工費

 参考までに革と生地の加工費を記載します。

 革 :価格検討中
 生地:18080円
   かつらぎ:110cm * 200 1080円
   人件費 :1000円/時、作業時間10時間で計算
   オガ粉 :送料込みの7000円
        (使った重量は1.5kg 残り6kg程余る)

 生地の費用から分かる通り、大量生産で安値で売るものには全く向きません。
少量で逸品を作りたいという人向けの材です。

【2014/9/25 追記】
 革の価格を「価格検討中」に変更しました。
 検討つき次第、こちらへ更新します。

これから

 他にも再利用できるものを考えている最中です。

角材

 万年筆への利用も有りました。

 現在は音響特性に着目して、
レコードのヘッドシェル制作の依頼をかけました。

 依頼先はエイトリックトランスフォーマーという
真空管アンプの手巻きトランスを作っている会社です。
トランスだけでなくシェルも作っています。

【2014/9/21 追記】
 角材は私が杉藤楽弓社様より買い取ったものを持ち込んで依頼しています。
 また、試作なのでどういう音になるのか不明です。
 出来次第、感想を書きます。
  

オガ粉

 染料としての価値は十分分かりました。

 染液から顔料を作る方法をしかり様より教えて頂いたので、
作る方法を検証しています。

フェルナンブコ 顔料研究中

 ミョウバンを加えた時は赤かったのですが、
固めるための消石灰を加えたら紫に。どうもPHで色が変化するようです。

 しかし、水分を加えたままにしておくと茶色になってしまうので、
その対策を検討中です。(現在、多忙につき止まっています。)

 また、色素に響きを良くする特性があるため、
できれば音響用に何かできないかと模索中です。

 例えばオガ粉を固めてもう一度響板として
使えるようにすることが上げられます。

 方法として目星をつけているものにオガ粉を樹脂にする
モクチック」というのがあるのですが、
私個人では到底やれそうにないですね。
ここへ踏み込むには何かしらのステップが必要でしょう。
(誰かがこれをみてやってくれると大変助かるのですが…)
 

ブロック材

 長さはありませんが厚みのある材なので、色々模索中です。
勿論、音響用製品で何かを考えています。

最後に

 オガ粉の再利用を検討して9ヶ月。鞄作りに関わってくださった方々のお陰で
ようやく「スタートライン」に立つことができました。
この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございます。

 この鞄を使って、染料としてのフェルナンブコを
色々なところへ紹介していく予定です。

※1:今でも万年筆「コレクター」は嫌いです。
   2014年にそれらしき人物にTwitterで一瞬フォローされた時、
   苛立って、全身に発疹が出たくらいです。

   それ以外はある程度落ち着いて接しています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください